心にもない謝罪で、人生は狂うことがある
心にもない謝罪で、余計に傷ついた経験はありませんか?
そしてその「謝罪」を信じたばかりに、さらに深く傷ついてしまった――。
今回は、私の母が最初に家を出たときのこと、そしてその後に起こった父の“お芝居”について書かせていただきます。
母が受けた「芝居のような謝罪」は、結果的に母を支配的な“毒母”へと変貌させる一因となり、私自身の子ども時代にも深い影を落としました。
■産後も継続した父からの暴力
前回の記事で書いたとおり、父は私の出産からわずか10日ほどで、実家に里帰りしていた母を新生児の私とともに強引に自宅へ連れ戻しました。
それ以降、母は本来であれば体を休めるべき産後の大事な時期に、家事も育児も全て一人で担うことになります。
(当時としては珍しくなかったのかもしれませんが)父は、「家事育児は女の仕事」と思っており、休日も気ままに過ごし、子育てに関与することは一切ありませんでした。
さらに妊娠中に始まった暴力は、私の誕生後も変わらず続いていました。
出産のダメージを抱えながら慣れない育児をこなすだけでも辛いのに、さらに父からの激しい暴力――。
母は心身ともに限界が近づいていました。
母の最初の家出
そしてついに、母は私を連れて家を出ます。
そのとき私は、ようやく首がすわったばかりの赤ん坊でした。
ただ、母は実家には帰りませんでした。父の性格と異常なまでの執着心を知っていたため、実家に戻ればそこに押しかけてくる可能性が高いと考えたのです。
母は祖父母には「父の暴力により家を出る」とだけ伝え、実家ではなく寮付きの病院で調理スタッフの仕事を見つけ、私を乳児保育園に預けながら働きました。
仕事は非常にハードで、ようやく帰宅しても赤ん坊だった私の世話が待っていました。
実家に頼れず、誰の助けもないまま、私が1歳になる頃まで育児と仕事を一人でこなした母の体はどんどん痩せ細り、心身ともに衰弱していったそうです。
父の土下座と謝罪
その間、父は何度も母の実家を訪れては、私たちの居場所をしつこく尋ねたり、身勝手な言い分を喚き散らしたりしていたそうです。
祖父母は「知らない」と言って突っぱねてくれていましたが、ある日、父が実家で土下座をして泣きながらこう謝ったのです。
「もう絶対に殴りません」
祖父の説得で帰宅へ
土下座する父の姿に、祖父は心を動かされました。
「もう暴力は振るわないと頭を下げてきたし、反省もしているようだから、戻ってやれ」
そう母に促した祖父ですが、背景には「離婚などもってのほか」という古い価値観や世間体を重んじる気持ちもあったと思います。
また、妊娠中に母が父からの暴力を相談したときも、この家出中も、祖父は夜な夜な酒に頼って憂さ晴らしをしていたそうです。
そうした祖父の姿を見て、母は「これ以上父に心配をかけたくない」という気持ちが芽生え、心に不安を抱えたまま父の元へ帰る決意をしました。
「よくもわしに土下座までさせやがって」
ところが帰宅した母を待っていたのは、謝罪の言葉ではなく、怒鳴り声でした。
「よくもわしに土下座までさせやがって。お前の親、刺し身にしちゃるぞ」
それは、謝罪を信じて帰ってきた母にも、説得した祖父にも唾を吐くような言葉でした。
父が見せた土下座も涙も、すべて“芝居”。真っ赤な嘘だったのです。
父は若い頃、格闘技をしていた経験があり、その風貌を活かして映画やドラマのちょっとした悪役に出演していたこともありました。演技は得意だったのです。
母は再び家を出ることなく…
騙されたと気づいた母でしたが、再び家出をすることはありませんでした。
実家に迷惑をかけたくないという思いと、この頃1歳になった私を一人で育てる難しさを考えてのことでした。
こうして母の最初の家出は終わり、父の家庭内暴力はこの後も何年も続くことになります。
心にもない謝罪は、人生を狂わせる
父の心にもない謝罪は、母の心を深く傷つけただけではなく、
結果的に私たち家族全員の人生を狂わせる引き金となりました。
父はその後も母や私たち子どもに暴力を続け、私が12歳になる頃、母が再び私と妹たちを連れて家を出るまで、地獄のような日々が続きました。
母は母で、「自分は正しい」と思い込み、気の強さから言葉の暴力を振るい続けていました。
短絡的で思い込みの激しい父とは最悪の相性で、暴力の連鎖は止まりませんでした。
やがて母は、父に傷つけられる「被害者」であることを強調しながら、
今度は「子どもを支配する加害者」へと変わっていったのです。
つまり、父の心にもない謝罪は、母を傷つけただけでなく、
私の生きづらさや母娘関係の崩壊へとつながる大きな要因のひとつとなったのです。
次回予告
次回は特別編として、少し話を遡って――
妊娠中に父から暴力を受けていた母が、実家で言われたある言葉。
そしてそのエピソードを、後になって母から聞かされたときの、私自身の心境について綴ります。
次回も読んでいただけたら、とても嬉しいです。
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